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浦和地方裁判所 昭和54年(わ)247号 判決 1979年5月28日

主文

被告人を懲役四年に処する。

未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

押収してあるナイロン製ロープ一本(昭和五四年押第一一七号の一)、携帯用懐中電灯一個(同号の二)、マイナスドライバー一本(同号の三)、バール二本(同号の四、五)及びドライバー一本(同号の六)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四三年五月一日松戸簡易裁判所において窃盗罪等により懲役二年四月、昭和四六年一一月二〇日東京地方裁判所において窃盗罪等により懲役二年六月及び懲役八月、昭和五〇年一月一一日千葉地方裁判所において常習累犯窃盗罪等により懲役三年六月にそれぞれ処せられ、後記窃盗の各行為前一〇年内に右各刑の執行を受けたものであるが、更に常習として、昭和五四年一月一二日午後九時ころから同年二月一〇日午後一〇時ころまでの間、七回にわたり、別紙犯罪一覧表記載のとおり、北海道函館市本町八番二〇号丸卓ビル三階フランスベツド販売株式会社函館支店ほか六か所において、堀雅博ほか六名所有にかかる現金合計約一五九万二〇六〇円、皮ジヤンバーほか三点(時価合計約二万八、四〇〇円相当)を窃取したものである。

(証拠の標目)(省略)

(累犯前科)

被告人は、(1)昭和四六年一一月五日東京地方裁判所において窃盗罪により懲役八月に、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺、有価証券偽造、同行使、住居侵入、窃盗未遂罪により懲役二年六月に処せられ、昭和四九年一月一九日右懲役二年六月の刑の、同年九月四日右懲役八月の刑の各執行を受け終り、(2)昭和四九年一二月二七日千葉地方裁判所において有印私文書偽造、同行使、詐欺、詐欺未遂、常習累犯窃盗、住居侵入罪により懲役三年六月に処せられ、昭和五三年五月二六日右刑の執行を受け終り、(3)昭和五三年七月二六日札幌簡易裁判所において建造物侵入未遂の罪により懲役六月に処せられ、同年一二月二六日右刑の執行を受け終つたものであつて、右事実は検察事務官作成の前科調書、各判決書謄本によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示所為は包括して盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条、二条、刑法二三五条に該当するが、被告人には前記の各前科があるので同法五九条、五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で四犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役四年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち九〇日を右の刑に算入することとし、押収してあるナイロン製ロープ一本(昭和五四年押第一一七号の一)携帯用懐中電灯一個(同号の二)ドライバー二本(同号の三、六)、バール二本(同号の四、五)は判示常習累犯窃盗の用に供した物で犯人以外の者に属しないから同法一九条一項二号、二項を適用してこれを没収し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

(未決勾留日数算入の対象となる未決勾留日数について)

本件記録によると、被告人は、昭和五四年二月一五日窃盗目的による住居侵入罪を犯して現行犯人逮捕され、同年二月一七日右住居侵入の事実により勾留されたこと(以下甲勾留という)、右勾留は、同年二月二六日「余罪を含めさらに捜査を遂げなければ起訴不起訴等の適切な処分を期し難い」との理由により、同年三月八日まで一〇日間の期間延長がなされたこと、ところが、検察官は、右甲勾留の延長期間の満了前である同年三月二日判示「罪となるべき事実」別表番号5・7の常習累犯窃盗の事実を起訴し、勾留中求令状の手続により、右常習累犯窃盗の事実についても、即日勾留状が発付されたこと(以下乙勾留という)が認められる。

ところで、窃盗を目的とする本件住居侵入は、審判の対象とはされていないけれども、判示常習累犯窃盗の行為に包括され、常習累犯窃盗罪一罪を構成するものと解するのが相当である(高松地方裁判所昭和四四年九月一八日判決判例時報五九〇号一〇六頁、京都地方裁判所昭和四六年五月二二日判決刑事裁判月報三巻五号七一六頁、名古屋高等裁判所昭和五一年一二月九日判決高検速報五六二号等参照)。

そして、右の前提に立つと、本件常習累犯窃盗罪の起訴の効力は右住居侵入の事実に及んでいること、本件はいわゆる一罪一勾留の原則が適用される場合であり、乙勾留の効力は甲勾留事実である住居侵入の事実に及び、甲勾留の効力は乙勾留事実である常習累犯窃盗の事実に及んでいると見られること(小田健司「常習一罪の各部分についての逮捕、勾留の可否」令状基本問題七五問二〇頁、二一頁)、従つて、甲勾留状が発せられた時点において、甲勾留と乙勾留はいわゆる二重勾留となるのであつて、いずれか一方が釈放手続や期間満了により終了しない限り、一方を取り消してその重複を解消しなければならない関係にあり、これを裏返せば、両勾留は、本来、別個の勾留として併存を許されない極めて密接な関係にあることが認められる。また、実際に、甲勾留期間中に、本件常習累犯窃盗の事実の取調べがなされていることも、前記甲勾留延長の理由や本件起訴に至る経過から明らかである。

そうすると、本件において、未決勾留日数算入の対象となる未決勾留日数には、起訴前の甲勾留期間をも含めるのが相当であるから、本件における算入の対象となる未決勾留日数は一〇〇日である。そこで、刑法二一条を適用してそのうちの九〇日を本刑に算入することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(別紙)

犯罪一覧表

<省略>

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